【患者】80代前半、女性
【主訴】歩く時に右脚に体重がかかると脚の付け根が痛い
【既往歴】特記事項なし
【現病歴】約2年前、ストレッチで無理をしてから、歩行時に右股関節前方に痛みが出現。当時、近医整形外科を受診し、右変形性股関節症と肉離れの診断を受けた。その後は安静を指示され動かさないようにしていたため、脚の付け根が固まった感じがするとのこと。
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【現症】歩行時の右下肢荷重時に、右股関節前方に痛みを感じる。右手にT字杖を持ち歩行している。左側臥位での右股関節可動域(以下、ROM)は、屈曲約20°・外転約30°・伸展約15°。Patrick sign陰性。下肢しびれ感なし。
【検査所見】レントゲンにて、股関節の変形と、大腿骨頭に骨壊死様の変化あり。神経学的異常は認めず。
【治療と結果】仰臥位にて、歩行時に一番痛みを感じる右股関節前方部分を触診すると、鼠径部中央付近に筋緊張の高い部分を認めた。特に、大腿直筋近位部の筋腱と思われる部分に最も緊張が高かった。よって、本症例は、痛みの要因の一つとして、股関節前方の鼠径部中央付近にある筋腱の緊張亢進を考えた。
まず、仰臥位にて、その緊張亢進部分の筋腱に緩消法を実施。2~3分後、同部が弛緩したのを確認。歩行動作をしてもらうと、痛みが10から8(NRS改変)と小さくなった。続けて、同部とその周囲の緊張の高い筋群に実施。約10分後、再度歩行動作をしてもらうと、痛みは10から5(NRS改変)と小さくなった。更に、同部に続けて約10分実施。
その後、歩行動作をしてもらうと、痛みは10から1~2(NRS改変)と小さくなった。また、主観で、歩幅が広くなり股関節を曲げて歩きやすくなったとのこと。左側臥位での股関節ROMは屈曲約30°・外転約40°・伸展約20°に改善した。
また、T字杖は、今後は健側の左手に持って歩行するように説明し、杖歩行の練習も行って今回の治療を終了とした。
【考察】股関節前方の筋腱の緊張を減らすことで、歩行荷重時の痛みを軽減させることができた。レントゲン画像上、変形と骨壊死様変化があっても痛みを減らすことができた症例である。